433: マチコちゃんのこと 1 2004/09/02 19:00:00
マチコちゃんが仕事に行くときはいつも真っ赤な口紅をつける。
この方がオヤジウケがいいのよってカラカラ笑いながら言う。
お化粧なんてしなくても十分キレイなのにマチコちゃんはびっくりするほど丁寧に、
念入りにお化粧をする。
まるで鏡と喧嘩しているみたいに、怒って、睨みつけながら、真剣に。
薄い桜色のマチコちゃんのくちびる。僕の大好きなやさしいくちびる。
恨めしそうな僕なんておかまいなしに真っ赤な口紅をたっぷりつけてマチコちゃんは
にっこりほほえむ。
マチコちゃんが仕事に行っている間、僕はずうっとマチコちゃんが帰るのを待っている。
なんにもしないで待っている。
マチコちゃんの布団にもぐりこみながらマチコちゃんの匂いに包まれて。
洗濯や掃除なんかすると、マチコちゃんが大変だから。
アタシがいなくてもけんちゃんは一人で生きていけるのねって。
掃除も洗濯もなんでも一人でできるのねって。
鼻も瞼も真っ赤になるまで泣きながらそこらじゅうにあるものを手当たり次第僕に投げつける。
枕を。手帳を。靴を。カップを。お皿を。バックを。
小さな肩を震わせて熱い熱い涙を流し続けているマチコちゃんを僕はキツク抱きしめる。
ごめんね、ごめんねって言いながら。
ごめんねマチコちゃん。
僕はマチコちゃんがいないと生きていけないよ。
一人じゃなにもできないんだから。
この方がオヤジウケがいいのよってカラカラ笑いながら言う。
お化粧なんてしなくても十分キレイなのにマチコちゃんはびっくりするほど丁寧に、
念入りにお化粧をする。
まるで鏡と喧嘩しているみたいに、怒って、睨みつけながら、真剣に。
薄い桜色のマチコちゃんのくちびる。僕の大好きなやさしいくちびる。
恨めしそうな僕なんておかまいなしに真っ赤な口紅をたっぷりつけてマチコちゃんは
にっこりほほえむ。
マチコちゃんが仕事に行っている間、僕はずうっとマチコちゃんが帰るのを待っている。
なんにもしないで待っている。
マチコちゃんの布団にもぐりこみながらマチコちゃんの匂いに包まれて。
洗濯や掃除なんかすると、マチコちゃんが大変だから。
アタシがいなくてもけんちゃんは一人で生きていけるのねって。
掃除も洗濯もなんでも一人でできるのねって。
鼻も瞼も真っ赤になるまで泣きながらそこらじゅうにあるものを手当たり次第僕に投げつける。
枕を。手帳を。靴を。カップを。お皿を。バックを。
小さな肩を震わせて熱い熱い涙を流し続けているマチコちゃんを僕はキツク抱きしめる。
ごめんね、ごめんねって言いながら。
ごめんねマチコちゃん。
僕はマチコちゃんがいないと生きていけないよ。
一人じゃなにもできないんだから。
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434: マチコちゃんのこと 2 2004/09/02 19:01:00
マチコちゃんがお客さんと仲良くしている間、僕は公園で散歩をして、
鳩と随分じゃれあってから、くしゃくしゃにしたスーツと履歴書を部屋の隅っこにほり投げる。
やっぱり今日もだめだったよ。って言うとマチコちゃんはほんとに嬉しそうに、にっこり笑う。
大丈夫だよ。けんちゃん一人くらいアタシが食べさせてあげるんだから。
まかしといて。って、にっこり笑う。
銀座のクラブなんかでもすぐ働けるくらい綺麗なのに、マチコちゃんは毎日街に立つ。
アタシはお喋りが苦手だからこのほうが楽なのよってケラケラ笑う。
クラブはもうこりごり。昔とても嫌なことがあったもの。あれに比べたら街に立つなんて苦じゃないの。
マチコちゃんが牛丼のふたつ入ったビニールをカシャカシャいわせて帰ってくるころ
僕は急いでエレベーターを1階まで下ろす。
けんちゃんただいまってマチコちゃんが言った後、僕は布団から這い出して
目をこすりながらおかえりを言う。
けんちゃん凄いのよ。今日もエレベーターあったのよ。って、大喜びでマチコちゃんは
幸せそうにいつまでもはしゃいでいる。
そうだよ、マチコちゃんは運がいいんだよ。
鳩と随分じゃれあってから、くしゃくしゃにしたスーツと履歴書を部屋の隅っこにほり投げる。
やっぱり今日もだめだったよ。って言うとマチコちゃんはほんとに嬉しそうに、にっこり笑う。
大丈夫だよ。けんちゃん一人くらいアタシが食べさせてあげるんだから。
まかしといて。って、にっこり笑う。
銀座のクラブなんかでもすぐ働けるくらい綺麗なのに、マチコちゃんは毎日街に立つ。
アタシはお喋りが苦手だからこのほうが楽なのよってケラケラ笑う。
クラブはもうこりごり。昔とても嫌なことがあったもの。あれに比べたら街に立つなんて苦じゃないの。
マチコちゃんが牛丼のふたつ入ったビニールをカシャカシャいわせて帰ってくるころ
僕は急いでエレベーターを1階まで下ろす。
けんちゃんただいまってマチコちゃんが言った後、僕は布団から這い出して
目をこすりながらおかえりを言う。
けんちゃん凄いのよ。今日もエレベーターあったのよ。って、大喜びでマチコちゃんは
幸せそうにいつまでもはしゃいでいる。
そうだよ、マチコちゃんは運がいいんだよ。
435: マチコちゃんのこと 3 2004/09/02 19:01:00
マチコちゃんの身体にマチコちゃんの口紅とそっくりな真っ赤な痣ができた頃
マチコちゃんの目はもうほとんど見えていなかったけれど
僕はほんとは少しだけ嬉しかった。
マチコちゃんと一日中ずっと、ずっと一緒にいられたから。
けんちゃんけんちゃん、けんちゃんけんちゃん。
僕はここにずっといたよ。
僕は一日中、もう言葉もわからなくなったマチコちゃんを抱きしめて、静かに暮らした。
マチコちゃんのお葬式は僕とマチコちゃんの二人きりだった。
親も兄弟も、もう随分前からいないのよ。って、いつかマチコちゃんが教えてくれた。
マチコちゃんの骨はびっくりするほど小さくて、真っ赤な痣のせいで
形も崩れてばらばらだったから、マチコちゃんの好きだった
インコの絵のついた花瓶に全部手ですくっていれた。
熱い熱いマチコちゃんの骨は、いつかのマチコちゃんの涙みたいだった。
マチコちゃんの入ったインコの花瓶を大事に抱えながら
沸きあがる陽炎に足を取られて、真夏の坂道を少しずつ登る。
手首より少し長いシャツのおかげで、こめかみを伝い、頬や瞼や前髪を、汗が伝う。
腕にではじめたマチコちゃんとおそろいの真っ赤な痣を誰かに見られないように、
シャツの上からそっと押さえた。
マチコちゃんの目はもうほとんど見えていなかったけれど
僕はほんとは少しだけ嬉しかった。
マチコちゃんと一日中ずっと、ずっと一緒にいられたから。
けんちゃんけんちゃん、けんちゃんけんちゃん。
僕はここにずっといたよ。
僕は一日中、もう言葉もわからなくなったマチコちゃんを抱きしめて、静かに暮らした。
マチコちゃんのお葬式は僕とマチコちゃんの二人きりだった。
親も兄弟も、もう随分前からいないのよ。って、いつかマチコちゃんが教えてくれた。
マチコちゃんの骨はびっくりするほど小さくて、真っ赤な痣のせいで
形も崩れてばらばらだったから、マチコちゃんの好きだった
インコの絵のついた花瓶に全部手ですくっていれた。
熱い熱いマチコちゃんの骨は、いつかのマチコちゃんの涙みたいだった。
マチコちゃんの入ったインコの花瓶を大事に抱えながら
沸きあがる陽炎に足を取られて、真夏の坂道を少しずつ登る。
手首より少し長いシャツのおかげで、こめかみを伝い、頬や瞼や前髪を、汗が伝う。
腕にではじめたマチコちゃんとおそろいの真っ赤な痣を誰かに見られないように、
シャツの上からそっと押さえた。
436: マチコちゃんのこと 4 2004/09/02 19:02:00
マチコちゃんは骨になってしまったけれど僕はちっともさびしくなんてなかった。
南の窓のすぐそばにインコの花瓶に入ったマチコちゃんがずっといたから。
けんちゃんけんちゃんって、いつも呼んでいたから。
僕の目もだんだん見えなくなってきて、部屋の掃除をしているとき
うっかりマチコちゃんの入ったインコの花瓶をひっくり返して
マチコちゃんをぶちまけちゃったけれど、マチコちゃんはくすくす笑って
けんちゃんバカねぇって優しく微笑んだ。
ほんとにダメだなぁ僕は。
そういって二人でたくさん笑う。
僕ってほんとにマチコちゃんがいないと何もできないんだから。
一人でなんて生きていけないんだから。
だからねマチコちゃん、もうすぐだから待っててね。
南の窓のすぐそばにインコの花瓶に入ったマチコちゃんがずっといたから。
けんちゃんけんちゃんって、いつも呼んでいたから。
僕の目もだんだん見えなくなってきて、部屋の掃除をしているとき
うっかりマチコちゃんの入ったインコの花瓶をひっくり返して
マチコちゃんをぶちまけちゃったけれど、マチコちゃんはくすくす笑って
けんちゃんバカねぇって優しく微笑んだ。
ほんとにダメだなぁ僕は。
そういって二人でたくさん笑う。
僕ってほんとにマチコちゃんがいないと何もできないんだから。
一人でなんて生きていけないんだから。
だからねマチコちゃん、もうすぐだから待っててね。
438: 名無し物書き@推敲中? 2004/09/02 19:14:00
>>433
出処教えて(つд`)
出処教えて(つд`)
440: 名無し物書き@推敲中? 2004/09/02 22:19:00
>>433
私も出処知りたい
私も出処知りたい
441: 名無し物書き@推敲中? 2004/09/04 06:32:00
>>434 の「鳩と随分じゃれあってから」のところまでは、猫の話かと思ったんだが、
やあ、人間の話であったか。
やあ、人間の話であったか。
引用元: 2chで見つけたちょっと泣ける話パート2
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